大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成10年(ネ)3110号 判決 1999年6月15日

福井県武生市家久町六三号一番地

控訴人

小野谷機工株式会社

右代表者代表取締役

三村義雄

右訴訟代理人弁護士

安田有三

小南明也

右補佐人弁理士

平崎彦治

山川政樹

黒川弘朗

東京都江東区東砂八丁目七番一一号

被控訴人

合資会社竹内技研製作所

右代表者無限責任社員

竹内永一

右訴訟代理人弁護士

秋吉稔弘

右補佐人弁理士

瀧野秀雄

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

一  原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。

二  右控訴人敗訴部分に係る被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二  事実関係

次のとおり付加、訂正、削除するほか、原判決の「第二 事案の概要」(原判決四頁一行ないし三八頁七行)に記載のとおりである。

一  争いのない事実の変更

同一三頁四行、五行までを、「(二) 構成aないしc、hは、それぞれ構成要件(1)ないし(3)、(8)を充足する。」と改める。

二  争点の追加

同一五頁三行の次に、改行して、次を加える。

「3の2 構成gは、構成要件(7)の「ベース本体の前記載置基準面側に押圧力を与えてタイヤとホイールとの着脱を行わせる」に該当し、構成要件(7)を充足するか。

3の3 本件考案は、要旨変更により出願日が繰り下がるため公知公用の無効原因を有しており、その権利の行使は権利の濫用となるか。また、控訴人は、イ号装置及びロ号装置について、いずれも先使用権を有するか。」

三  争点3(構成要件(4))についての被控訴人の主張の追加

同二一頁六行の次に、改行して、次を加える。

「 ロ号装置においては、シリンダの内室内の油がセット螺杆の下降を防止させるためのものであり、構成要件(4)を充足する。スピイルによる落下防止の記載は、飽くまで実施例に関するものであって、構成要件(4)が右のスピイルの例のものに限定されるものではない。」

四  争点3(構成要件(4)についての控訴人の主張の追加)

同三一頁一行の次に、改行して、次を加える。

「(6) ロ号装置においては、タイヤの脱着作業の前に、載置面4上に円筒リング6、ホイール、タイヤを重ね、更にタイヤの上に圧入リング7を重ねるセット作業が行われるが、このセット作業は、セット螺杆2を上昇させないで行われるから、その落下防止も不要のまま載置作業が完了する。すなわち、ロ号装置では構成要件(4)にいう「係止」は不要である。

これを作用効果の点から検討すると、本件考案では、セット螺杆6を引き上げ、セット螺杆6がピストン5内に落下しないようにしてセット作業をするから、伸長したセット螺杆6の上端を越えるようにタイヤ等の載置をすることになり、作業性が悪く、危険でもある。これに対し、ロ号装置は、セット螺杆2を油圧でピストン1に対して昇降させることが可能な構成としたので、原判決別紙第二目録第1図の状態ですべての載置を完了することができ、本件考案の前記欠点をすべて解決したものである。したがって、ロ号装置は本件考案からは期待できない顕著な作用効果を奏する。」

五  争点3の2(構成要件(7))

原判決三一頁一行の次に(前記四項の次に)、改行して、次を加える。「3の2 争点3の2(構成要件(7))について

(一)  被控訴人の主張

ロ号装置は、本件考案の構成要件(7)を充足するものである。

控訴人の後記(二)の主張は、次のとおり誤りである。

(1) 控訴人主張のA作業(セット螺杆2及びピストン1の昇降を使用するもの)における圧入嵌着の開始時、最初にセット螺杆2が下降するとの主張は、誤りである。

ア 原判決別紙第二目録第4図の油の入口Bの直径は設計上八ないし一〇mm程度であるとともに、該孔がセット螺杆2の下端の鍔部の上面に接しており、その接している部分の圧力は、僅かに〇・一トンである。

このことは、次の計算から明らかである。すなわち、油の出口の直径を八mmとすると半径は四mm(〇・四cm)であるから、その油の出口の面積は、〇・四cm×〇・四cm×三・一四=〇・五〇二cm2となる。二一〇kg/cm2の油圧ポンプを使用するとすると、その油圧が右直径八mmの油の出口の面積に作用する加圧力は、〇・五〇二cm2×二一〇kg/cm2=一〇五・四二kg≒〇・一tである。

この〇.一トンの加圧力は、とてもセット螺杆を下降させる力とはなり得ない。

イ しかも、原判決別紙第二目録第4図のBの経路を経由して送られてくる油は、油圧の流通路を通ってピストン1の下端の大径部の上面をも同時に加圧する。

このときのピストン1への圧力(タイヤを着脱するための圧力)は、約八五トンであり、これは、次の計算により算出できる。すなわち、シリンダーの内径が二六cm、ピストンロッドの外径が一二・五cmとすると、シリンダーの内径の半径は一三cm、ピストンロッドの外径の半径は六・二五cmとなるので、シリンダーの断面積は、一三cm×一三cm×三・一四=五三〇cm2となる。また、ピストンロッドの断面積は、六・二五cm×六・二五cm×三・一四=一二二cm2となる。シリンダーの断面積とピストンロッドの断面積の差は、五三〇cm2-一二二cm2=四〇八cm2であり、ピストンに加わる油圧は、四〇八cm2×二一〇kg/cm2=八五六八〇kg(約八五トン)となる。

ウ 以上の説明から分かるように、油の入口Bからシリンダ5の外室に油を導き油圧を加えると、セット螺杆2に加わる油圧よりもピストン1に加わる油圧のほうがはるかに大きいので、まずピストン1を下降させるものである。

(2) また、控訴人主張のB作業(セット螺杆2のみの昇降を使用するもの)については、セット螺杆2のみの昇降では、圧力不足でタイヤの着脱は不可能であることが明らかである。

すなわち、セット螺杆2にかかる油圧を計算するには、セット螺杆2の断面積とピストン1の断面積の差に油圧ポンプの出力を乗ずることにより答えが得られる。そして、ロ号装置のセット螺杆2の外径は約七cmであり、ピストンの内径は約八・五cmであり、使用されている油圧ポンプは二一〇kg/cm2のものである。そうすると、セット螺杆2の断面積は、三・五cm×三・五cm×三・一四=三八・四六cm2、ピストン断面積は、四・二五cm×四・二五cm×三・一四=五六・七一cm2となり、ピストンとセット螺杆との各断面積の差は五六・七一cm2-三八・四六cm2=一八・二五cm2となる。この断面積の差に、油圧ポンプの出力二一〇kg/cm2を乗ずれば、セット螺杆にかかる油圧は、二一〇kg×一八・二五cm2=三八三二kg≒四トンとなる。

約四トンの油圧では、せいぜい九インチまでの合わせリムのタイヤの着脱しかできず、タイヤの着脱は不可能である。

(3) 控訴人は、本件考案の構成要件(7)にいう「載置基準面側に押圧力を与える」との要件は典型的な機能クレームであるから、明細書の考案の詳細な説明及び図面の記載によりその技術的手段を判断せざるを得ない旨主張するが、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、そもそも機能的クレームには当たらない。すなわち、本件考案の実用新案の登録請求の範囲には、<1> 中央の開口を形成し、タイヤとホイールとの着脱に際しての載置基準面となるベース本体と、<2> 前記ベース本体の載置基準面の下面側に固定されたシリンダと、<3> 該シリンダからペース本体の前記中央の開口を貫通して上方に伸びるピストンと、<4> 該ピストンに対して伸縮自在に且つ係止可能に取付けられるセット螺杆とからなる駆動部と、と記載され、駆動部の構成を明らかにしている。したがって、構成要件(7)の「載置基準面側に押圧力を与える」ものは、構成要件(1)ないし(4)に記載されたものからなる駆動部によるものであることは明らかである。

仮りに、構成要件(7)が機能クレームであるとしても、発明の構成要件を思想的に表現し発明保護の完全を図ろうとすれば、特許請求の範囲の一部を機能的に表現せざるを得ない場合があるので、構成要件(7)の記載は許されるべき記載である。

(二)  控訴人の主張

(1) 構成要件(7)にいう「載置基準面側に押圧力を与える」ためには、シリンダ4の駆動力を、ピストン5とともにセット螺杆6を降下させる引張力に変換し伝達しなければならないが、右の記載は機能的クレームであり、本件公報には右力変換伝達手段は記載されていないから、その技術手段は本件公報に添付の図面(以下「本件図面」という。)の記載によって判断するほかはない。本件図面第1図及び第2図には、セット螺杆6の下面に突設した係合鍔6cがピストン5上部の内壁に係合する状態がタイヤのホイールに対する圧入開始時点から同嵌着完了時点まで維持されていることが図示されており、シリンダ4の駆動力によりピストン5を引き下げ、その引張力が右セット螺杆6の係合鍔とピストン5の上部内壁との係合を介してセット螺杆6に常時伝達されるものである。

したがって、構成要件(7)において、右係合状態が着脱開始時点から同完了時点まで維持されていることは不可欠な技術事項である。

(2) ロ号装置は、構成要件(7)を充足しない。

すなわち、タイヤの取付け・取外し方法には、圧入リングの下方への移動量が大きい場合にセット螺杆2とピストン1の昇降を利用するA作業と、圧入リングの下方への移動量が小さい場合にセット螺杆2のみの昇降を使用するB作業とがある。

A作業における圧入嵌着の開始時、すなわち原判決別紙第二目録第4図の下降開始時、ロックナット9の下面とプレッシャープレート8の上面との間は離間しているので、最初にセット螺杆2のみがピストン1に対して下降する。すなわち、右第4図の状態で油の入り口Bからシリンダ5の上側室(外室)に油を導き油圧を加え、この油圧によりセット螺杆2が下降する。そのため、セット螺杆2の下端の鍔部上側が油圧によってピストン1上部の内壁に押しつけられて止まっている状態が解除される。しかし、大きな着脱力が必要な場合、セット螺杆2の下降力だけではタイヤはホイールに圧入できず、セット螺杆2が右の離間分下降すると、タイヤによりセット螺杆2の下降は阻止される。そして、ピストン1の下端の鍔部上面にかかる大きな油圧によってピストン1が下降し始め、再びセット螺杆2の下端の鍔部上側が油圧によってピストン1上部の内壁に押しつけられて止まっている状態となり、セット螺杆2の下降が再開し、圧入リング7が下降してタイヤのホイールへの圧入が行われ、第5図に至り、タイヤの圧入嵌着がされる。

一方、セット螺杆2のみの昇降を使用し、ピストン1の上下動を利用しないB作業の場合、原判決別紙第二目録第2図から第5図に至り、次いで、油の入り口Bからの油圧が加わってピストン1の上側室に油圧が加わり、セット螺杆2がピストン1内を下降し、第6図の状態へと移行する過程でタイヤがホイールへ圧入嵌着される。この作業中は、セット螺杆2の下端の鍔部上側が油圧によってピストン1上部の内壁に押しつけられて止まっている状態にはならない。

右いずれの作業も可能なのは、<1>ピストン1自体をセット螺杆2のシリンダとし、セット螺杆2のピストン1に対する上下動の駆動源とした構成、及び<2>セット螺杆2の下端の鍔部外周面とピストン1内周面間の摩擦抵抗を、ピストン1下端の鍔部外周面とシリンダ5内周面間の摩擦抵抗より小さくした構成を採用したからである。

これらA作業及びB作業の構成は、構成要件(7)の着脱手段として本件公報に開示されたものとは到底いえない。」

六  3の3(権利の濫用、先使用権)

原判決三一頁一行の次に(前記五項の次に)、改行して、次を加える。

「3の3 争点3の3(権利の濫用、先使用権)について

(一)  控訴人の主張

(1) 本件考案は、平成三年四月二六日付け手続補正(乙第二号証の六)によるものであるが、次に述べるとおり、願書に最初に添付した明細書又は図面(乙第二号証の一。以下「原明細書」又は「原図面」といい、両者を合わせて「原明細書等」という。)に記載した事項(乙第二号証の一)の範囲内の考案ではない。したがって、本件考案は要旨変更によるものであり、本件考案の出願日は右手続補正がされた平成三年四月二六日となる。

そうすると、本件考案は、右出願日前に控訴人、被控訴人により公然実施され、又は公知となったものであり、本件実用新案権は無効原因を有しているから、かかる事実の下に被控訴人が本件実用新案権を行使することは、権利の濫用であって許されない。

また、控訴人は、右繰り下がった本件考案の出願日前に、イ号装置及びロ号装置を製造販売していたから、本件実用新案権について先使用権を有するものである。

(2) ずなわち、

ア 本件考案の構成要件のうち、「着脱に際しての載置基準面となるベース本体」を設けること、及び「ベース本体の載置基準面の下面側に固定されたシリンダ」を設けることは、原明細書等に記載されていない。

イ 本件考案の構成要件のうち「タイヤを加圧する着脱リング」と「ベース本体の前記載置基準面側に押圧力を与える」について、本件考案では、

<1>セット螺杆6の下端の係合鍔6cの上面をピストン5の上端部の下面に当接させ、タイヤ1を下方に引っ張ること、

<2> ピストン5の支持材11を載置基準面3aに固定すること及びピストン5を支持材11によりガイドすること、

<3> 圧力発生源であるシリンダ4のパッキング9、が必要であるが、これらは原明細書等に記載されていない。

ウ 本件考案の構成要件のうち、「セット螺杆」が「該ピストンに対して」、「係止可能に取付けられる」ためには、セット螺杆6の周側面のスピイル6aについては、係合鍔6cの上面から少なくともピストン5の上端部の厚さの範囲の周側面には、スピイル6aを設けてはならない。しかしながら、原図面第1図ないし第3図には、右あってはならない範囲においてもスピイル6aが設けられており、係止可能とはならない。

(二)  被控訴人の主張

(1) 控訴人の権利の濫用、先使用権の主張は争う。

(2) 「着脱に際しての載置基準面となるベース本体」を設けること、及び「ベース本体の載置基準面の下面側に固定されたシリンダ」を設けることは、原明細書の実施例の説明の項における「Aは可搬式のタイヤ脱着装置であり、この装置Aは、タイヤ1をセットする支持リング2を上面に設けたベース本体3と、該ベース本体3の下面に設けられたシリンダ4と、」(二頁末行ないし三頁三行)との記載、及び原図面に明らかにされている台板の中央の開口とによって表現されたものであり、何ら要旨変更とならないことは明らかである。

(3)ア セット螺杆6の下端の係合鍔6cの上面をピストン5の上端部の下面に当接させ、タイヤを下方に引っ張る点は、原明細書の「12は前記セット螺杆6の雄ネジ部6bに取付けられたナットであり、前記着脱リング7を前記セット螺杆6に取付けた場合に、前記着脱リング7の抜け出しを防止するようになっている。6cはセット螺杆6の下面に突設された抜け防止用の係合鍔である。」(四頁一五行ないし末行)、「セット作業が完了してから、シリンダ4内の内室4a内を減圧し、シリンダ4内の外室4b内を加圧することにより、ピストン5とともにセット螺杆6を降下させ、着脱リング7の下面の肩部でタイヤ1を圧縮、変形させ、ロックリング13をタイヤホイール8の外鍔部8d内に係止してリング14を重設することにより緩みを防止するようにしてタイヤ1をタイヤホイール8に圧入、嵌着する。」(六頁三行ないし一一行)、「ロックリング13、およびリング14をタイヤ1から外した後にシリンダ4の内室4aを減圧し、外室4bを加圧することにより、ピストン5とともにセット螺杆6を降下させ、着脱リング7の下面の肩部でタイヤ1を圧縮、変形させ、タイヤホイール8からタイヤ1を取り外す(第3図参照)。」(六頁末行ないし七頁六行)との記載から当然理解されることである。

イ ピストン5の支持材11を載置基準面3aに固定すること及びピストン5を支持材11によりガイドすること、及びウ 圧力発生源であるシリンダ4のパッキング9は、原明細書等から明らかである。なお、原明細書に「支持材9、10」とあるのは、原図面から明らかなように「支持材10、11」の誤記であり、「パッキング11」とあるのは「パッキング9」の誤記であって、原図面の符号9の示すところにも誤記があるが、これらが誤記であり、その正しい内容が何であるかは、原明細書等に接する当業者が容易に理解することができることである。

(4) スピールによるセット螺杆の落下防止の点につき、原図面に矛盾した記載があるとしても、その点が誤記であり、正しくは控訴人が指摘するとおりに理解されるべきことは、原図面に接する当業者にとって明らかであるから、この点をもって要旨変更があると解することはできない。」

第三  当裁判所の判断

当裁判所は、イ号装置及びロ号装置は本件考案の技術的範囲に属し、本件考案につき控訴人の主張するような要旨変更があるとはいえないため本件実用新案権の行使は権利濫用ではなく、控訴人に先使用権も認められないから、被控訴人が求める差止請求は理由があり、不法行為による損害金も原判決主文第三項の限度で理由があると判断するものであるが、その理由は、次のとおり原判決に付加、訂正、削除するほか、原判決の理由(三八頁九行ないし五七頁一行)に記載のとおりである。

一  争点3(構成要件(4))について

1  原判決四七頁七行「セット螺杆6」から八行までを、次のとおり改める。

「セット螺杆6を下から支える何らかの力によりピストン5に押し付け、セット螺杆6の重力による落下を防止しているのであれば、セット螺杆6は、ピストン5にかかわり合って止まっているということができる。」

2  原判決五〇頁七行ないし五二頁九行を、次のとおり改める。

「 原判決別紙第二目録の第1図の状態は、同装置を使用するための初期状態であり、セット螺杆2の上端に同目録第10図のロックナット9が取り付けてある。そして、第1図の状態で、ベース本体の載置面4に円筒リング6、ホイール、タイヤ、圧入リング7を順次重ねる。

その後、同目録第1図のA矢印方向の油圧がピストン1に送り込まれると、セット螺杆2がピストン1の中を上昇し、同目録第2図のようになる。更にA矢印方向の油圧が送り込まれると、セット螺杆1の下端の鍔部上端がピストン1の上部の内壁と係合した状態でピストン1が上昇し、同目録第3図の状態になる。この時、セット螺杆2とピストン1は、既に載置面4の上に重ねてある円筒リング6、ホイール、タイヤ及び圧入リング7のほぼ中心部を上昇する。その結果、セット螺杆2及びピストン1は載置面4に対する関係では最も上方に位置することになる。

右の状態で、ロックナット9の下面と圧入リング7の上面との間に、同目録第7図のプレッシャープレート8の厚さ以上の余裕を持った隙間が生ずる。この隙間にプレッシャープレート8を挿入して同プレート8の開口部11でセット螺杆2を挟むように圧入リング7の上面に置く。

同目録第4図の状態で油の入り口Bから矢印方向にシリンダ5の外室に油を導き油圧を加えると、ピストン1が下降を始め、セット螺杆2の下端の鍔部上端がピストン1の上部の内壁と係合しているためピストン1がセット螺杆2を引っ張って第4図の状態から第5図の状態に駆動し(なお、控訴人は、第4図の状態からまずセット螺杆2のみがいったん下降する状態が生じる旨主張するが、仮にそうであるとしても、いずれにしても載置面4上の円筒リング6、ホイール、タイヤ、圧入リング7及びプレッシャープレート8の存在によりセット螺杆2の下降が阻止され、ピストン1が下降を始め、セット螺杆2の下端の鍔部上端がピストン1の上部の内壁と係合した状態となり、ピストン1がセット螺杆2を引っ張って同目録第5図の状態になることに変わりはない。)、その過程でホイールに対するタイヤの嵌着がされる。

タイヤがホイールに嵌着した後、油圧の供給を停止し(必要あれば、ピストン1及びこれに係合しているセット螺杆2を若干上昇させ)、プレッシャプレート8を取り外す。再び油の入り口Bからの油圧を供給し、セット螺杆2、次いでピストン1を下降させると、同目録第6図の原位置の状態になる。この位置で載置面4上の圧入リング7等の治具やタイヤを取り去る。

(二) 右(一)に認定の事実によると、ロ号装置においては、多くの場合、ピストンの作動によってタイヤの着脱が行われ、そのタイヤの着脱は、セット螺杆2の下端の鍔部上端がピストン1の上部の内壁と係合した状態となり、ピストン1がセット螺杆2を引っ張って行われるが、タイヤの着脱の前に行われるタイヤ等のセット作業においては、載置面4の上に円筒リング6、ホイール、タイヤ、圧入リング7を重ねた後、セット螺杆2は油圧によってピストン1内を限界まで上昇し、セット螺杆の下端の鍔部上側が油圧によってピストン上部の内壁に押し上げられて止まり、更にピストンが上昇するものである。

そして、このように油圧によってセット螺杆2の下端の鍔部上側がピストン1上部の内壁に押し付けられて止まっている状態は、構成要件(4)の「係止」に当たるということができる。」

3  同五二頁一〇行ないし五三頁六行を削除する。

4  同五三頁六行の次に、改行して、次を加える。

「6 控訴人は、争点3についての当審における追加的主張として、ロ号装置においては、タイヤの着脱作業の前に行われるセット作業は、セット螺杆2を上昇させないで行われるから、構成要件(4)にいう「係止」は不要である旨主張する。しかしながら、前記(原判決四九頁八行ないし五〇頁六行及び前記2)に認定のとおり、ロ号装置の多くの場合の着脱方法においても、ベース本体の載置面4に円筒リング6、ホイール、タイヤ、圧入リング7を重ねた後、載置基準面側に押圧力を与えるためいったんはセット螺杆2をピストン1よりも上の位置に押し上げ、ロックナット9の下面と圧入リング7の上面との間にプレッシャープレート8を挿入する必要があるものであるから、ロ号装置においても載置面4側に押圧力を与える前に、セット螺杆2の落下を防止する必要があることに変わりはないから、この点の控訴人の主張は理由がない。」

二  争点3の2(構成要件(7))について

原判決五三頁九行の次に、改行して、次を加える。

「四 争点3の2(構成要件(7))について

1  前記(原判決四九頁八行ないし五〇頁六行及び前記一2)に認定の事実によれば、ロ号装置において、原判決別紙第二目録第4図の状態で油の入り口Bから矢印方向にシリンダ5の外室に油を導き油圧を加えると、ピストン1が下降を始め、セット螺杆2の下端の鍔部上端がピストン1の上部の内壁と係合しているためピストン1がセット螺杆2を引っ張って第4図の状態から第5図の状態に駆動し、タイヤに押圧力を与えるものであるから、構成gは構成要件(7)を充足するものと認められる。

2  控訴人は、本件図面第1図及び第2図に基づき、構成要件(7)において、セット螺杆6の下面に突設した係合鍔6cがピストン5上部の内壁に係合する状態が着脱開始時点から同完了時点まで維持されていることは不可欠な技術事項である旨主張する。

しかしながら、甲第一号証によれば、本件公報には、「セット作業が完了してから、シリンダ4内の内室4a内を減圧し、シリンダ4内の外室4b内を加圧することにより、ピストン5とともに支持リング2、その上面に支持するホイール8、タイヤ1、着脱リング7の略中心を貫通しているセット螺杆6を降下させ、ベース本体3の略中心に位置するピストン5の引張、駆動力をムラなく均一にセット螺杆6に取付けた着脱リング7に伝達する。而して着脱リング7の下面に肩部でタイヤ1の上面を中心から略等距離の位置において効率良く平均に圧縮、変形させるとともにホイール8は支持リング2により下方より支持することによりホイール8に対するタイヤ1の圧入をすすめ、」(第六欄一九行ないし三二行)、「ロックリング13、およびリング14をタイヤ1から外した後にシリンダ4の内室4aを減圧し、外室4bを加圧することによりシリンダ4を駆動し、ピストン5とともに支持リング2'、ホイール8、タイヤ1、着脱リング7の略中心に位置し貫通しでいるセット螺杆6をシリンダ4の駆動によって降下させ、着脱リング7にピストン5からの引張力を略同心円的にロスなく効率的に伝達させてその下面の肩部でタイヤ1を略同心円的にムラなく平均的に圧縮、変形させ、ホイール8からタイヤ1を取り外す(第3図参照)。」(第七欄二七行ないし第八欄六行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば、構成要件(7)にいう「ベース本体の前記載置基準面側に押圧力を与える」ことには、セット螺杆6の下面に突設した係合鍔6cがピストン5上部の内壁に係合し、油圧によりピストン5がセット螺杆6を引っ張ることが含まれることが認められるが、それ以上に、控訴人主張のセット螺杆6の下面に突設した係合鍔6cがピストン5上部の内壁に係合する状態が着脱開始時点から同完了時点まで常時維持されていることが不可欠の事項であるとまで認めるに足りる記載はない。

さらに、ロ号装置の例外的使用方法であるセット螺杆のみの昇降によってタイヤの着脱を行う場合、セット螺杆2の下面に突設した係合鍔がピストン1上部の内壁に係合し油圧によりピストン1がセット螺杆2を引っ張る態様で載置面4側に押圧力を与えるものではないが、このことが例外的にあるからといって、ロ号装置の構成gが構成要件(7)を充足するとの結論を左右するものではない。

したがって、控訴人の右主張は理由がない。」

三  争点3の3(権利の濫用、先使用権)について

原判決五三頁九行の次に(前記二項の次に)、改行して、次を加える。

「四の二 争点3の3(権利の濫用、先使用権)について

1  控訴人は、本件考案の構成要件のうち、「着脱に際しての載置基準面となるベース本体を設ける」こと及び「ベース本体の載置基準面の下面側に固定されたシリンダ」を設けることは原明細書等に記載されていない旨主張する。

しかしながら、乙第二号証の一(及び甲第二七号証)によれば、原明細書の実施例の説明の項に、「Aは可搬式のタイヤ脱着装置であり、この装置Aは、タイヤ1をセットする支持リング2を上面に設けたベース本体3と、該ベース本体3の下面に設けられたシリンダ4と、」(二頁末行ないし三頁三行)と記載され、原図面第1図ないし第3図にも、符号3で示されるベース本体と、ベース面部(本件公報では符号3aで示されるもの)が図示されていることが認められ、これらによれば、本件考案の構成要件のうち、「着脱に際しての載置基準面となるベース本体を設ける」こと及び「ベース本体の載置基準面の下面側に固定されたシリンダ」を設けることは原明細書等に記載されていた事項というべきである。

2  控訴人は、本件考案の構成要件のうち「タイヤを加圧する着脱リング」と「ベース本体の前記載置基準面側に押圧力を与える」について、本件考案では、<1>セット螺杆6の下端の係合鍔6cの上面をピストン5の上端部の下面に当接させ、タイヤ1を下方に引っ張る、<2>ピストン5の支持材11を載置基準面3aに固定すること及びピストン5を支持材11によりガイドすること、<3>圧力発生源であるシリンダ4のパッキング9、が必要であるが、これらは原明細書等に記載されていない旨主張する。

しかしながら、乙第二号証の一(及び甲第二七号証)によれば、原明細書には「12は前記セット螺杆6の雄ネジ部(「雌ネジ部」は誤記であると認められる。)6bに取付けられたナットであり、前記着脱リング7を前記セット螺杆6に取付けた場合に、前記着脱リング7の抜け出しを防止するようになっている。6cはセット螺杆6の下面に突設された抜け防止用の係合鍔である。」(四頁一五行ないし末行)、「セット作業が完了してから、シリンダ4内の内室4a内を減圧し、シリンダ4内の外室4b内を加圧することにより、ピストン5とともにセット螺杆6を降下させ、着脱リング7の下面の肩部でタイヤ1を圧縮、変形させ、ロックリング13をタイヤホイール8の外鍔部8d内に係止してリング14を重設することにより緩みを防止するようにしてタイヤ1をタイヤホイール8に圧入、嵌着する。」(六頁三行ないし一一行)、「ロックリング13、およびリング14をタイヤ1から外した後にシリンダ4の内室4aを減圧し、外室4bを加圧することにより、ピストン5とともにセット螺杆6を降下させ、着脱リング7の下面の肩部でタイヤ1を圧縮、変形させ、タイヤホイール8からタイヤ1を取り外す(第3図参照)。」(六頁末行ないし七頁六行)と記載されていることが認められ、これらの記載によれば、<1>セット螺杆6の下端の係合鍔6cの上面をピストン5の上端部の下面に当接させ、タイヤ1を下方に引っ張ることは、原明細書に記載されている事項と認められる。

さらに、乙第二号証の一(及び甲第二七号証)によれば、原明細書には「前記ピストン5は、ベース本体3の中心部に設けられた収容穴3a内に環状の支持材9、10と、パッキング11を用いて密に取付けられている。」(四頁四行ないし六行)と記載され(後記のとおり、右記載のうち「支持材9、10」は、「支持材10、11」の誤記であり、「パッキング11」は、「パッキング9」の誤記であると認められる。)、原図面第1図ないし第3図にも右の点が図示されていることが認められるから、<2>ピストン5の支持材11を載置基準面3aに固定すること及びピストン5を支持材11によりガイドすること及び<3>圧力発生源であるシリンダ4のパッキング9は、原明細書等に記載されていると認められる。なお、シリンダの駆動力を利用するためには、油漏れ等を防ぐためにシリンダとピストンとの接合面等にパッキングが必要であるとの技術常識を踏まえ、原図面と対照しながら乙第二号証の一の原明細書を読めば、原明細書に「支持材9、10」(四頁五行)とあるのは、「支持材10、11」の誤記であり、「パッキング11」(四頁六行)とあるのは「パッキング9」の誤記であって、その本来示すべき箇所が本件公報の添付図面において9で示す箇所であることは、原明細書等に接する当業者にとって明らかな事項と認められる。

3  さらに、控訴人は、本件考案の構成要件のうち、「セット螺杆」が「該ピストンに対して」、「係止可能に取付けられる」ためには、セット螺杆6の周側面のスピイル6aについては、係合鍔6cの上面から少なくともピストン5の上端部の厚さの範囲の周側面には、スピイル6aを設けてはならない。しかしながら、原図面第1図ないし第3図には、右のあってはならない範囲においてもスピイル6aが設けられており、係止可能とはならない旨主張する。

しかしながら、乙第二号証の一(及び甲第二七号証)によれば、原明細書には「セット螺杆6は、・・・手動操作によりピストン5に対して単独に昇降自在となり、上昇させた場合に、例えば90度回転させることにより、周側面に設けたスピイル6aがシリンダ5の上面に係合することにより、落下は防止される。」(四頁七行ないし一四行)と記載されていることが認められ、この記載によれば、原図面第1図ないし第3図においてセット螺杆6の周側面のスピイル6aにおいて、係合鍔6cの上面からピストン5の上端部の厚さ相当分の周側面にもスピイルが図示されていることは誤記であり、正しくは、右部分にスピイルがないように図示すべきであることは、原明細書等に接する当業者にとって容易に理解し得る明らかな事項と認められる。

4  以上のとおり、本件考案は要旨変更によるものである旨の控訴人の主張はいずれも理由がなく、これを前提とする権利の濫用及び先使用権の主張も理由がない。」

四  項番号の変更

原判決五三頁一〇行の「四」を「四の三」と改める。

第四  結論

以上によれば、被控訴人の請求は原判決主文第一ないし第三項掲記の限度で認容すべきであるところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとする。

(口頭弁論終結の日 平成一一年四月一五日)

(裁判長裁判官 永井紀昭 裁判官 塩月秀平 裁判官 市川正巳)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例